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『ナマコを歩く』赤嶺 淳著(2010年新泉社)

namakowoaruku
現場から考える生物多様性と文化多様性

   本書はかつて、『ナマコの眼(マナコ)』を著したアジア研究者、鶴見良行氏(1926〜94)の遺志を継ぎ、ナマコを追いかけてフィリピンから世界全体を俯瞰(ふかん)しようとする著者の大胆かつ精緻な試みといえる。叙述されているナマコは、華語では海の朝鮮人参を意味する「海参」と表記される。古くは『古事記』に、あるいは各地の特産物などを記した『延喜式』などにもしばしば登場し、かつては日本の対中国(明・清朝)への重要な輸出産品だった。
   ナマコは江戸時代後期、長崎の出島交易で中華料理の高級食材として珍重された乾燥アワビと並ぶ、対中国「俵物三種」の一角を占めていた。因みに『延喜式』には「このわた」(内臓の塩辛)の記述がみられ、「いりこ」という塩蔵加工も行われていたことも記録されているから、およそ少なく見積もっても日本だけでも1000年ほどこの生物と付き合っていることになる。また 夏目漱石の『吾輩は猫である』にも「ナマコを最初に食べた人間の胆力には驚くRead Moreべきものがある」旨が記されているが、本書が述べているのはこの、内臓を吐き出してもなおしばらくは生きながらえる奇妙な生物がときには人間そのものを翻弄し、欺いてきた歴史とその拡がり(現在)ともいえる。
   著者は学生時代に国立フィリピン大大学院に留学、フィリピン最南部のスルー海域のマンシ島地域でのシアン(青酸)やダイナマイト漁法などの現場を踏査した。その後、国立民族学博物館(大阪)をベースに地道に研究を深めるかたわら、東京での「ヤシ研」、「カツ・かつ(カツオ・かつお節)研」などを経て、ようやくその本領であるナマコの世界に立ち戻った。文字通り世界中を駆け抜ける中で本書を書き上げた。本書執筆に際してはフィールドをさらに拡げ、南太平洋諸島からモルッカ海峡、インド周辺海域、欧州、さらに北米から南米にまで足を伸ばし、議論の説得性にいっそうの厚みを持たせている。
   著者のフィールドワークは、ナマコが紡ぐ現在に至る社会経済史への探求であり、ついでにいま風にいうなら、食のグローバル化の変遷をたどる旅でもあった。そして、このナマコが切り拓いてみせるのは「身の丈」大の交易ネットワークであるとともに、それにとどまらない自律的な人の営みのダイナミズムでもあるといえる。
(山田修、出版社勤務)
 (あかみね・じゅん: 名古屋市立大人文社会学部准教授 [東南アジア地域研究/フィールドワーク技術論])

 よるナビ第1号[Yoru Navi Vol. 1]より

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