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この鈍重で愛しき乗り物 トライシクル

文・写真:松本重樹(セブ在住)(まつもと・しげき)

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   フィリピンの交通機関で内外に知られるのは、戦後に米軍が放出した軍用ジープを発祥とし、特徴ある形と派手に塗り分けられた色彩の「ジプニー」がある。交通の専門家によると「どこでも乗れて、どこでも降りられるジプニーは究極の公共交通の姿」と持ち上げるが、黒煙をまき散らして大通りを我が物顔に疾走し、横柄に駐停車を繰り返す姿には閉口する人も多い。
   その大通りから一歩入った横町の道になるとバイクに側車を取り付けた乗り物「トライシクル=3輪タクシー」の世界で、この何気なく視界に通り過ぎるトライシクルも、好奇心の眼でもって眺めると意外に面白い乗り物と分かる。

国・地域によってデザイン、仕様が違う
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   3輪タクシーというのはフィリピンだけではなく、世界中にあって、中米・ホンジュラスではスペイン製3輪タクシー【写真1】が走っていて、ヨーロッパは3輪車というのは廃れない車で、イタリアでもいまだに3輪車を生産している。そういった上品な3輪車ではなく、改造された車種となると、東南アジアの独壇場で、日本でかつて生産していた3輪車「ミゼット」を土台にしたタイの「トゥクトゥク」が名高く、隣国カンボジアでは呼び名はトゥクトゥクと同じながら、バイクにリヤカー状の座席を引っ張る正確には4輪になるタイプが走っている【写真2】。この間パラワン島プエルトプリンセサ市へ行ったが、地方の都市はまだまだトライシクルの天下で、交差点では怒涛のようにトライシクルが行き交っていた【写真3】。ここで出会ったトライシクルは【写真4】で分かるように、もともとゴツゴツした印象の強いデザインが、前面に洒落た曲面ガラスが使われ、車高も低く、走る姿を初めて見た時は宇宙船のような感じがした。車体を叩いたら材料は鉄板ではなくFRP(強化プラスティック)製、曲面を生かした作りであるのが良く分かる。

セブ島のトライシクル模様
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   カバー写真(左)に使われているのはセブ島北端に浮かぶ島に走るトライシクルで、こういった10人以上も乗るのは地方では珍しくなく、乗車定員など有名無実。トライシクルの乗客数について書くと【写真5】はセブ市内でも多く走っている型になるが、運転手側に横座りで2人、座席側には前方を向いて前と後ろに2人ずつ計6人の乗客が標準となる。しかし、この他に荷物を後方に積み、プラス運転手に車体重量を加えると相当な総重量になる。それでいてエンジンは90ccから125cc程度の小さい排気量だから、ゆるい坂道でウンウン唸りながらノロノロ走らせる姿になり、車に乗って追い越しをかける時は邪魔の何物でもないが、いかにもフィリピンらしい光景で妙に楽しくなる。
 セブ島は南北に250キロ、東西に40キロと細長い島だが、海岸線の周回道路を回ると500キロあり、セブ島も北と南ではトライシクルのデザインも相当違う。【写真6】はジンベイザメ見物で最近脚光を浴びるセブ島南部の町に走る型で、トゥクトゥクのようなデザインに近く、これは立派な3輪車と言って良いが正確にはバイクに2輪車を合体させた作りで4輪車になる。ジプニーと同じ座り方で、片側に通路を挟んで3人ずつ計6人が標準。トライシクルは雨には弱い乗り物だが、この手のデザインは雨に濡れなくて済みそうだ。後方には似たデザインの比較的新しい型が停まっているから今も生産されているようだ。
また、同地区では【写真7】のどこかの洒落者がデザインしたような車高が低く、前面の見通しが良さそうなトライシクルを見かけたが、このように地域、地域でデザインと仕様が違うのは町内の小さな鉄工所や車の修理工場のような所で受注生産していて、製作者の個性が出るためではないかと見ている。

トライシクルの現状
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   このトライシクル、数字の出所は良く分からないがフィリピン国内には350万台以上走っているという。最近、フィリピンの人口は1億人を超えたとアメリカCIAは発表しているが、そうなると国内に30人に1台以上の割合で普及しているわけで、それはどう見ても多過ぎる気がする。運転手を1台当り1人とすると350万人も居るわけで、仮にこの数字に近いとすると労働人口としては相当大きな職能集団になりGDPや雇用の面で大きな影響力を持つと思うが、零細なその日暮らしの就労形態では社会的に影響力を持つには少々弱いのかも知れない。しかし、社会学的に真面目に取り組んでみれば案外と面白いものが出てくるのではないか。
   この間、フィリピン国軍士官学校を首席で卒業した生徒の父親が、地方のトライシクルの運転手だったと、話題になったが、よそ目にはしがないトライシクル運転手に見えても、これ一筋で生計を立て立派に子どもを育て上げている人々もたくさん居るのも事実で、職業に貴賤はなしはどこの国でも通じる。
   この一見、気楽そうに運転できそうなトライシクルだが、以前知り合いに頼んで運転させてもらったことがある。人を乗せずに広場で運転したが、外見に似合わずハンドルは重く、真っ直ぐ走らせるのも思うほど行かず、左右に曲がる時は、相当の要領が必要だった。
   運転といえば、私もフィリピンの自動車免許を取得して久しいが、免許証の裏には普通自動車とオートバイの運転(日本のように排気量別に細かく分けず、全て運転可能)が許可され、トライシクルも運転できると記載されている。もっともこれは運転できるのと営業ライセンスを得るのとは別で、外国人のジプニー運転手が居ないように外国人のトライシクル運転手というのは今も今後もあり得ないであろう。

トライシクルの未来と新プロジェクト
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   マニラ首都圏に本店のある「アジア開発銀行」(ADB)が5億ドルを投じて「電動トライシクル」のプロジェクトを進めている。これは2017年までに10万台を新規に生産して排気ガス汚染の軽減に役立てようという趣旨で、大変結構なことであるがフィリピンに長年住んでいると「本気なのか、本当にできるのか」という疑問が起きる。
 フィリピンには日本のような車検制度はないが、毎年の車両登録時には指定の「排気ガス検査機関」で排気ガスの検査を受ける必要がある。私の経験だが、1969年製のフォルクスワーゲン車に乗っていた時、整備屋で調整して検査機関に持って行ったら不合格。再度整備屋で調整して持って行ったらまた不合格。この2回の検査は私が持ち込んだが、3回目は整備屋に持ち込ませたらなんなく合格。どうもこのケース、日本人の私がまともに持ち込んだのが良くなく、最初から鼻薬を聞かせれば一発で合格と知ったのは後の祭り。こういう形骸化したフィリピンの排ガス検査だから、黒煙を振りまくジプニー、トラックをいつまでもフィリピンから駆逐できないのも道理である。
   話を戻すがADBのプロジェクトでは日本などのメーカーが参加を表明し、既に黄色く塗られた試験車が首都圏で走っているそうだが、電気自動車(EV)は車体を供与すればあとは任せられる乗り物ではなく、充電設備を始めエンジン車とは違う後方支援、メインテナンス技術とハードルは高い。関連して車の電動化以前に、日本では爆発的な人気のハイブリット車をフィリピンでは2008年日本から輸入、販売しているが、通常のガソリン車の倍もする値段のためもあって、今年の5月現在で90台にも満たない販売数という。
   電動トライシクルの場合、ただでさえ日銭稼ぎでやっとの運転手が20万ペソはするといわれる車体をどうやって購入、維持するのかソフトの面でも問題は山積み。加えて定員オーバーが普通のフィリピン式乗り方から見れば、力の弱い上品な電動モーターは不向きではないかの指摘もある。こういった点から、運用する場所は首都圏やセブといった取締りの目の届く限られた大都市、及びボラカイ島などの観光客の集まる地域で使うことを考えているようだが、こうなると巨額な金を費やす「観光開発プロジェクト」の一つ、もっと他に金の使い方はあるのではとの気もする。ADBも「駄目で元々」精神で取り組んで、成功すればいうことないが、くれぐれもプロジェクトで一部の利権屋が儲けることのないように願いたい。

ナビ・デ・セブ第5号[Navi de Cebu Vol. 5]

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