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「貧乏人の子だくさん?」

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by 大矢  南(マニラ新聞記者)

   おなかの大きい母親が右腕に1歳未満の子供を抱え、左手は2、3歳以上の子供の手を握る。子供が2人ほど手をつないでいるそばには10代の子供が妹、弟をおぶって母親の後について歩く。首都圏の貧困層が暮らす地域でよく見る光景です。団塊世代以前の日本人男性の方々からはノスタルジックな思いを込めて「終戦直後の日本と同じだ」という声をよく聞きます。
   国連人口基金の2012年報告書によると、フィリピンの合計特殊出生率は3・1で、東南アジア諸国連合10カ国で最高です。2015年までの達成を目指す国連ミレニアム開発目標の一つ、妊産婦死亡率や家族計画サービス・情報の普及でも遅れが目立っています。
   人工妊娠中絶は違法ですが、望まない妊娠から、年間約40万人が医師または無資格者による中絶手術や、密輸中絶薬の服用、民間療法などの危険な方法で中絶を行っているといわれています。10代の妊娠増加も問題です。
   政府は「格差なき経済成長」と、「リプロダクティブ・ヘルス」(女性、夫婦、すべての個人、カップルが基本的人権として、家族計画に関する情報を十分に受け、子供の数と妊娠・出産の間隔を自ら決定し実行する環境を整えること)の観点から、カトリック司教協議会(CBCP)の猛反発の中、人口抑制法案の可決を推進しています。
   「貧乏人の子だくさん」。子供が多くて貧しい生活を送っている人々はどう思っているのでしょうか。なぜ子供が多いか。子供は神からの授かり物で避妊してはいけないというカトリック信仰が強い、生んでも家族が大きく育てやすい、家族計画の正しい情報が普及していない、子供が多い方が男らしいという男性のマッチョイズムなど、さまざまな社会文化的背景が入り組んでいますが、フィリピン人と話しているとおもしろい話をよく聞くので、一部を紹介させてください。

①首都圏マニラ市バセコ地区。マニラ港に隣接しており、漁業関連、荷物運び、ゴミ拾い、ペディキャブやトライシクルの運転手などをして暮らす貧困層が中心です。1世帯当たりの月収1万ペソ未満が全世帯の9割を占めます。2010年の人口約5万1千人のうち、17歳以下が実に60%を占め、60歳以上はわずか1%。見事な富士山型のピラミッドです。
 以下は同地区の公立無料出産センターでの雑談。
おじさん1「そういや、なんで金持ち連中は子供が少ないのかな」
おじさん2「そりゃおまえ、金持ちは夫婦共働きで忙しい上に、仕事で疲れて家に帰ったらすぐ寝るだろう。家も大きすぎて、夫婦のベッドや部屋も別々かもな」
「貧困層ではどうなんですか」おばさん1「部屋も狭いし、夫が帰宅したら、服を脱がせて、足を洗ってあげて……。その流れで、そうなるわよね」
おじさん1「疲れて帰った夫をマッサージする流れで、な?」。
一同爆笑。
おばさん2「それに専業主婦にとっては、うわさ話とトンイッツ(トランプ賭博)とビンゴ以外で、唯一の楽しみよね」。
一同爆笑。

②首都圏ナボタス市の海岸にせり出した違法占拠地区で。あまりに子供の数が多いので近くにいたお兄さんたちに。
「この辺では夫婦当たりの子供の数ってだいたい何人くらいですかね?」
お兄さん「いや〜男にも強いのと弱いのがいるからなぁ」。周りの男たち一同爆笑。

③雨が続いたり、年末年始で肌寒い時期にはこんな話もしょっちゅう耳にします。
フィリピン人「今夜は妊婦が増えるぞ」
「なんでですか?」
フィリピン人「そりゃあ、寒いときに体を温めるために夫婦ですることと言ったら一つしかないだろう」笑。

④こちらもよくきく話。
フィリピン人「停電の日や、貧しくてテレビがない家では妊娠する女性が多い」
「なんでですか?」
フィリピン人「そりゃあ、テレビがなかったら夜にする楽しみといったらほかにないだろう」笑。

⑤結婚はまだで、同居しているカップルに対してはこうです。
おじさん「何年同居してるんだ?」
女性「4年です」
おじさん「子供は何人?」
女性「いません。結婚してから」
おじさん「4年も同居しててなんで1人も子供がいないんだ? 家で一体何をしてるんだ」

   子供がいない=避妊している、正しく避妊すれば妊娠しない、という考えにつながることはほとんどありません。
   子供が10人以上というクラスになると、たいていが1〜3年ごとの出産です。バセコ地区で国連人口基金が開催した家族計画フェアに来ていた17歳の女性(2児の母)は「避妊を始めないと毎年子供が生まれてしまう」と話していました。ピル(経口避妊薬)を服用している女性(35)は「避妊を始めなかったら今ごろ子供の数は1ダースになっていたわね」と語りました。
   夫婦やカップルで、セックスレスというのは非常に珍しいようです。ラジオ番組の相談コーナーなどでは「夫との関係が冷めてしまった」という声も聞かれますが、そういう場合はたいてい「夫が若い女と浮気していることが分かった」と続きます。この場合、夫婦の間にこれ以上子供は生まれないかもしれませんが、浮気相手との間に婚外子(アナック・サ・ラバス)が生まれます。
   男女ともに、携帯電話の中には、成人向け動画が保存してあることが多いです。
   家庭や地域に、日本人なら耐えられないであろうほどの金銭面、衛生面、治安面、人間関係など多くの問題を抱えながらも、問題で自分を苦しめすぎず、楽しむ方法や思考回路を身につけて、ストレスフリーな環境を無意識に作っていることも、女性の妊娠に一助を担っているような気がします。男性が「責任感フリー」すぎるという気もします。
   15歳のとき、初めて訪れたフィリピンで、昼間に道のど真ん中で犬の交尾を見かけて度肝を抜かれました。ゴキブリですら、道ばたで交尾しています。日本では一度も見たことのない光景に「そっか、そら生き物みんなセックスしないと増えないよな」と当たり前のことで妙に腑に落ちました。
   「貧乏人の子だくさん」。家族の稼ぎ手をより多く確保するためだけが理由でしょうか。性生活も人間の営み。あきれることも多々ですが、良いか悪いかは別にして、フィリピンにいると、理論や合理性で説明できないことがたくさんあるから、人間くさくておもしろいなと思うことがよくあります。
(おおや・みなみ)
   *文中の写真は本文とは関係ありません。

ナビ・マニラ第13号[Navi Vol.13]より

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