リゾートアイランド・セブのこだわり生活情報誌
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沈黙と静寂がない社会

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   好きなフィリピン社会が、なぜこうも騒々しいのだろうと考えさせられる。最近はあのやかましいジプニーの中の音楽は規制でなくなってきた。昔はスピーカーが座席の下に仕掛けられて音楽が全身に響く構造になっていたものだ。一説ではこれが女性の性感を刺激して快感を誘ったのだという。
   家では家鳴り振動せんばかりに音楽を響かせる。私が家に帰るとすぐに音量を小さくする。小さな音は音楽でないと言わんばかりだ。マニラでタクシー運転手に言われた「ラジオの音楽を切れ、エアコンが寒すぎる」と小言を言うのは決まって日本人だそうだ。これがアメリカ人だと「音楽を聴きながら一緒にエンジョイし、エアコンをもっと効かせろ」と言うそうだ。中国人は何も言わないらしい。
   ともあれ、日本人の美徳といわれた「沈黙」「静寂」「孤独」はクソ食らえというのがフィリピンだ。フィエスタ(お祭り)がくると逃げ出したくなる。連日午前3時から4時過ぎまで賃借したステレオでディスコ音楽をガンガン鳴らして眠らせない。これが最高に楽しいというから私は黙って酒を飲んで寝るしかない。
   もっとも近所迷惑という発想はフィリピン人には全くない。「沈黙」は美徳ではなくもっとも嫌われる日本人の性格らしい。「静寂」は死にそうになると言うからそんな家は建てて欲しくないということらしい。「孤独」は、そんなくらいなら死んでしまえといわれる。みんなでワイワイやるのが最高に幸せなのだ。
   だから私のように吉田兼好法師の「徒然草」が好きで、あの世界にあこがれるタイプの人間が、どうして「意味もなく騒々しい、フィリピンに永住するのか」と言われそうだから、「日本だって最近のテレビは大声張り上げて騒々しいじゃないか」と逃げることにしている。実のところは、やっぱり結婚生活の快適さから離れられないのかもしれない。作家の曽野綾子さんが「恐ろしいほどの寡黙の中で、人生を見据えた人々に会えた時代を幸福に思う」と書いていたが、私はそこまでは言わない。一人で静かに寝酒をチビリちびりとやれればよい。(岡昭、SNN代表、セブ在住)

[おか・あきら]
   1957年に戦後賠償機械の民間転用についての日比政府間プロジェクトに参画して初めて来比、以後、ジェトロの市場調査員、比政府機関の技術コンサルタントなどを委嘱されてフィリピンに定住、83年に家具・雑貨の専門商社「AQRA」を創業、フィリピン全土を歩く。セブ日本人会会長を延べ10年間務めて、現在、非営利法人(NPO)「新日系人ネットワーク(SNN)」理事長、日刊マニラ新聞セブ支局長。在外邦人生存者叙勲「単光旭日章」受賞。

ナビ・マニラ第9号[Navi Vol.9]より

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